大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(ネ)715号 判決

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、「(一)本件手形に受取人として記載せられた東京交易株式会社は実在しない会社である。それ故本件手形は受取人を記載しない手形と同じで、約束手形の要件を欠く無効の手形であり、かつ実在しない東京交易株式会社の裏書もまた無効で、裏書の連続を欠くから、被控訴人は控訴人に対し本件手形支払請求権を有しない。(二)被控訴人の前者である新東物産株式会社及び小松梭利はともに、本件手形が割引のための手形であり、かつ控訴人が割引金の交付を受けていないものであることを知つて本件手形を取得した悪意の所持人である。よつて控訴人は支払拒絶証書作成後に裏書により本件手形を取得した被控訴人に対し右小松梭利に対する抗弁をもつて対抗する。」と述べ、被控訴代理人において、「(一)本件手形の受取人である東京交易株式会社が実在しない会社であることは知らない。仮にそうであつても、本件手形の振出が無効となる訳もないし、裏書の連続にも影響を及ぼさない。(二)新東物産株式会社及び小松梭利が本件手形の悪意の取得者であることを否認する。(三)被控訴人に対してなした小松梭利の裏書が取立のため訴訟を主たる目的としてなした信託譲渡のためであることを否認する。右は支払代金受領のための単なる譲渡裏書である。」と述べた外、原判決事実摘示記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

控訴人が昭和二十八年五月六日東京交易株式会社にあて金額二百万円、満期同年七月二十九日、支払地並びに振出地千葉県君津郡大貫町、支払場所株式会社千葉銀行大貫支店と記載した約束手形一通を振り出したこと、右手形には東京交易株式会社から新東物産株式会社に対する昭和二十八年五月三十一日附裏書、新東物産株式会社から小松梭利に対する同年七月十一日附の裏書あること、小松梭利が満期の翌々日である昭和二十八年七月三十一日支払場所に本件手形を呈示して支払を求めたところ支払を拒絶されたこと、昭和二十八年八月四日附で小松梭利から被控訴人あての裏書があること、被控訴人が現に本件手形の所持人であることは、当事者間にいずれも争のないところである。

控訴人は、本件手形の受取人である東京交易株式会社は実在しない会社であるから、本件手形は約束手形の要件を欠く無効の手形であり、かつ裏書の連続を欠くものであると主張しているけれども、約束手形の要件の充足並びに裏書の連続は手形面の記載自体から形式的に判断すべきものであるから、控訴人主張のように東京交易株式会社が実在しない会社であつても、本件手形の振出は有効であり、かつ裏書の連続に欠くるところはなく、控訴人の主張自体理由がない。

次に控訴人は、本件手形は騙取されたものであり、新東物産株式会社、小松梭利は右事実を知つて本件手形を取得した悪意の取得者であると主張しているけれども、本件一切の証拠によるも右事実を認め難い。すなわち、当審証人福村実、原審証人岩田謙治、小松梭利、秋山秀雄、山梨武夫、佐々木二郎の各証言を綜合すれば、控訴会社の代表取締役岩田謙治が福村実に対し本件手形外六通の約束手形の割引を依頼したところ、福村実は本件手形を株式会社大長取締役佐々木二郎に交付してこれが割引を依頼し、佐々木二郎はこれを新東物産株式会社に交付して割引を依頼したが、新東物産株式会社が株式会社大長に債権を有していたことから、これを右佐々木二郎の了解を得て貸金の弁済にくり入れた上、新東物産株式会社はこれを小松梭利に対する石炭代金の弁済として同人に裏書譲渡したことが認められ、本件一切の証拠を調べても、被控訴人の前者である小松梭利が本件手形が騙取手形と知つて本件手形を取得したと認めるに足る何の資料も存在しない。

次に控訴人は、新東物産株式会社及び小松梭利は本件手形が割引のため振り出された手形であつてしかも割引金が振出人に交付されていないことを知りながら本件手形を取得したものであると主張しているけれども、小松梭利については右事実を知つて本件手形を取得したと認めるに足る何の証拠もないことは、前段説示するところにより明らかである。

従つて、控訴人は小松梭利から期限後裏書によつて本件手形を取得した被控訴人に対しても、騙取手形ないしは割引金未交付の割引手形であると知つて本件手形を取得したとの抗弁を主張し得ないことは、小松梭利の場合と同様であつて、控訴人の右抗弁は排斥を免れない。

次に控訴人は、小松梭利から被控訴人に対する本件手形の裏書譲渡が、手形金取立のため訴訟を主たる目的としてなされた信託行為であると主張しているけれども、右事実を認めるに足る証拠がないばかりでなく、前掲証人小松梭利の証言によれば、小松梭利は被控訴人に対する債務の弁済にあてるため本件手形を譲渡したものと認められるから、控訴人の右主張も亦採用し難い。

よつて控訴人に対し本件手形金二百万円及びこれに対する呈示の日の翌日である昭和二十八年八月一日から支払ずみまで商法所定の年六分の法定利率の割合の遅延損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求を許容した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大江保直 岡咲恕一 猪俣幸一)

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